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タイトル 意思の確認について

 

今回は、「意思」の確認について。
 ある物件の売買をするにあたり、ある人の意思の確認をしに行きました。おばあさんです。息子さん、息子さんのお嫁さん同席の下、意思の確認のため、質問をしました。詳細は省きますが、生年月日や住所を伺いましたが、返答できませんでした。全ての質問を、家族が答えているような状態でした。「質問答えられんのは、年相応やと思うよ!」とは、息子さんのお話。
 で、質問を終えた後も普通の会話をするふりをしつつ、おばあさんの事を探ってみたのですが、話せば話すほどに、息子さんが不機嫌になってくる。明らかに。顔も若干赤くなってきているような。こりゃ私が疑っていることに対して怒ってらっしゃる。足の貧乏ゆすりも気になります・・・。(そういえば、司法書士として登録したてのころ、本人確認の質問をしていたら、「権利書もってきているのに、疑う気か!」と怒鳴られたことがあったっけ・・・。)こんな時に、「おばあさんは認知症ですか?」と尋ねたら溜まったマグマが噴火してしまいそう。
 また、ここに漕ぎつけられたのは、不動産屋さんの多大な努力の賜物であり、また、行政庁の許可も取っている。一連の手続きの中で、多くのプロが携わっており、誰もおかしいと思った人が居ないのだから大丈夫なのでは?それに、やっと売買した不動産なのだから、なんとしてでも成立させる方向にしたい、という気持ちが。で、結局そのようなプレッシャーに耐え切れず、年相応なのかな、と悶々としながらすごすごと帰ってきました。


 

 でも帰ってきてもやはり心に引っかかるものが。
 納得がいかなかったので、息子さんに電話で翌日おばあさんが居る施設で会う約束をとりつけました。
 施設に行ってまず職員さんにお話を伺ったのですが、開口一番、不動産取引は無理でしょう、とのお話でした。そして、おばあさんが認知症であることも告げられました・・・危なかった。
あのまま取引をしていたら、とんでもないことになるところだった、と血の気が引きました。
 せっかく施設まで来たので、おばあさんに会って帰ることにしました。すると、昨日会った私のことを覚えていらっしゃらないのです。改めて、もう一度会って良かったと思った瞬間でした。そして、前日の段階で、プレッシャーに負けずに息子さんに対して意思能力不十分と言うことをその場で断言すべきでした。反省。
 さて、その後取引がどうなったか、といいますと、おばあさんとそのご家族と仕事を通じて長年関与していたベテラン司法書士の先生がおばあさんに会い、めでたくOKがでたのでした。ほっと胸を撫で下ろしました。この場合、おばあさんの息子さんは、若くて経験の浅い私の方が堅苦しいことを言って、引っ掻き回していると思ってるのでしょうか。
 しかし、司法書士の信念にかけて、私は今でも正しい判断だったと思っています。だから、今回ばかりは、悲観的な私でも全く落ち込むことなく、清々しい気持ちで反省をしたのでした。そして、意識確認というのは本当に難しいのだと痛感しました。
 以上、私の不満をぶちまけただけになってしまいました。